介護サービス契約と身元保証条項【弁護士が教える身元保証】
当サイト上で説明したように、介護サービス事業者が介護サービス契約を締結する際には、介護サービス契約書を作成すべきです(介護サービス契約書に関する記事)。
そこで、今回は、介護サービス契約書に、いわゆる「身元保証」条項を加える意味は何か、加える場合にはどのような内容にするのが望ましいのかという点について説明していきます。
目次
1 身元保証条項を加える意味
1-1 利用料支払いの担保
当サイト上で、利用者の利用料滞納問題やその解決策など説明しているところではありますが、事業者にとって利用料を確実に回収することが重要な課題の1つであることは間違いないでしょう。
しかしながら、介護事業者は、介護保険制度を利用できる事業者であり、その大部分は、介護保険から支払われることになります。
したがって、身元保証条項を利用料支払いの担保という意味で加えるとすれば、それは、本人負担分の支払いの担保という意味でしょう。もちろん、事業者にとっては大部分が介護保険から支払われるとはいえ、本人負担分も確実に回収することも重要であるため、利用料の支払い担保の目的で身元保証条項を加える意味はあるでしょう。
1-2 損害賠償債務の担保
介護事業サービスを提供していると、利用者が施設や第三者に損害賠償をしなければならないような失敗をすることもあるでしょう。このような場合に、確実に損害を賠償してもらうため、身元保証条項を加えるべきだという考え方もあります。
他方で、利用者に判断能力がない場合には民法上の損害賠償責任を問うことができません。そして、利用者に損害賠償責任が生じない以上、身元保証人がいても意味がありません。したがって、損害賠償債務の担保としての身元保証条項は不要だとの声も聞こえます。
皆さんは、どのように考えますか。個人的には、利用者全員の判断能力がないという状況は別にして、利用者に損害賠償債務が発生する可能性がある以上、高額になる可能性もある損害賠償債務の担保としての身元保証条項を加える意味はあると考えます。
1-3 身元引受け
上記のように、身元保証条項は、利用料支払いや損害賠償債務の担保という意味があるところです。
しかし、身元保証条項の持つ最も重要な意味は、本人に何かあった場合に引き取ってくれる、本人死亡の際の後始末や葬儀等の主宰を行ってくれるという、身元引受けという意味ではないでしょうか。事業者が事業を運営するに際し、身元引受人がいれば、残置物の処理などのその後の処理の手間が省けますし、迅速にベッドを空けることができる等、収支にプラスに働くことが多いでしょう。
したがって、身元引受けという意味で身元保障条項を加える意味はかなりあるということになります。
2 身元保証条項の内容
2-1 身元保証の意味・内容を具体的に!
上記のように、一言で「身元保証」といっても、様々な意味を持つし、持たせたい場合があるということが分かると思います。このような多義的な「身元保証」という単語の意味・内容を説明することなく介護サービス契約書に記載しても、結局「身元保証」の意味・内容が不明確で、何を定めているのか分かりません。
そこで、契約書中に身元保証条項を入れる場合には、「身元保証」の意味・内容をできる限り具体的に記載するようにしましょう。
2-2 具体例
抽象的に説明してもイメージがわきづらいと思いますので、以下、具体例を示します。
2-2-1 利用料や損害賠償の担保の場合
身元保証人は、この契約に基づく甲(利用者)の乙(事業者)に対する一切の債務につき、甲と連帯して履行の責任を負います。
2-2-2 身元引受けの場合
身元保証人は、次の各号の責任を負います。
②契約解除又は契約終了の場合、乙(事業者)と連携して甲(利用者)の状態に見合った適切な受け入れ先の確保に努めます。
③甲(利用者)が死亡した場合の遺体及び遺留品の処理その他の必要な措置を行います。
3 おわりに
身元保証条項についての理解は深まったでしょうか。多義的な身元保証条項について、意識的に考えるきっかけとなってもらえることを願います。
なお、最後に、注意点を1つだけ。
介護サービス事業を受けたい利用者は、身寄りがなく、身元保証人になってくれるような人がいないことも多いと思います。そして、そのような方々こそ、介護サービスを利用する必要性が高いこともまた事実です。したがって、身元保証人がいなければ契約を締結しない等、身元保証人を過度に要求することは、介護事業全体の信頼性を損ないますし、場合によっては指定事業者の指定取消事由に該当する危険があるということも頭にいれておいてください。
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