やむなく施設利用者の身体を拘束して介護する必要があると考える場合の検討・留意事項とは!?
昨今、介護利用者の身体を拘束して、虐待をしている施設があるという問題がニュースになるということがあります。もちろんニュースにでているような虐待まがいの拘束は絶対に許されるものではありません。ただ、介護事業者の実態として、何も拘束をしないと利用者に危険が及んでしまうという現実も見逃すことはできません。
そこで、今回は、やむなく身体拘束が必要と考えた場合に、しっかりと検討・留意しなければならない事項について書きたいと思います。
目次
1 身体拘束は原則禁止!緊急やむをえない場合に限って認められる!!
「介護老人施設の人員、施設及び運営に関する基準」という介護保険指定基準上、もちろん原則として、利用者の「身体的拘束」が禁止されています。
もっとも、例外的に、「利用者等の生命又は身体を保護するために緊急やむを得ない場合」には、身体的拘束を行うことが認められています。
基準13条4項
介護老人保険施設は、介護保険施設サービスの提供に当たっては、当該入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体拘束その他入所者の行動を制限する行為(以下「身体拘束等」)を行ってはならない。
では、緊急やむを得ない場合とは、いかなる場合をいうのでしょうか。
2 どのような場合に「緊急やむを得ない場合」といえるのか!?
2ー1 「①切迫性②非代替性③一時性」の3要件
「緊急やむを得ない場合」といえるためには、①切迫性②非代替性③一時性という3要件を満たす必要があります。
①切迫性とは!?
切迫性とは、利用者本人又は他の利用者の生命又は身体が危険にさらされる可能性が著しく高いことをいいます。
「身体拘束ゼロの手引き」によると、この判断を行う際に事業者が行わなければならないとされていることは、身体拘束を行うことにより本人の日常生活等に与える悪影響を勘案し、それでもなお身体拘束を行うことが必要となる程度まで利用者本人等の生命又は身体が危険にさらされる可能性が高いことを確認しなければならないという点です。
要するに、身体拘束を検討する事業者が切迫性の有無を判断する際には、身体拘束によって利用者本人に与える日常生活の悪影響としてどのようなものがあるか、身体拘束をしなかった場合に利用者本人に対するどのような生命又は身体の危険が生じるか、その危険が生じる可能性がどの程度なのかといったことを協議し、その過程及び結果を記録しておくことが重要であるということです。
②非代替性とは!?
非代替性とは、身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないことをいいます。
「身体拘束ゼロの手引き」によると、この判断を行う際に事業者が行わなければならないとされていることは、まず、身体拘束を行わずに介護するすべての可能性を検討し、他に代替手法が存在しないか複数のスタッフで確認しなければならないという点です。また、拘束の方法も、本人の状態等に応じて、最も制限の少ない方法により行わなければならないとされています。
要するに、身体拘束を検討する事業者が非代替性の有無を判断する際には、複数のスタッフで身体拘束以外に代替的な介護方法がないことを確認・協議し、その上で最も制限の少ない拘束方法がどのようなものかという点についても十分協議して、その過程及び結果を記録しておくことが重要であるということです。
③一時性とは!?
一時性とは、身体拘束その他の行動制限が一時的であることをいいます。
「身体拘束ゼロの手引き」によると、この判断を行う際に事業者が行わなければならないとされていることは、本人の状態等に応じて必要とされる最も短い拘束時間を想定しなければならないという点です。
要するに、身体拘束を検討する事業者が一時性の有無を判断する際には、本人の状態からすればどの程度の時間拘束すればよいのかという点を十分協議し、その過程及び結果を記録しておくことが重要であるということです。
2ー2 極めて慎重な手続きが実施されていること
身体拘束が認められるためには、上記3要件を満たしただけでは足りず、手続き面でも慎重な取り扱いが求められています。その内容は、以下のとおりです。
①施設全体の意思決定であることを明確にする。
緊急やむを得ない場合であるとの判断は、担当スタッフ個人(又は数名)だけで行わず、施設全体の判断が行われるように、あらかじめルールを決めておきましょう。
例えば、施設内に「身体拘束廃止委員会」を組織し、事前に手続き等を定め、具体的事例についても関係者が幅広く参加したカンファレンスで判断する体制を整えておくことが大事です。
② 本人や家族の理解を得るため、丁寧な説明を行う。
身体拘束を行う場合には、本人やその家族に対して、身体拘束の内容、目的、理由、拘束の時間、時間帯、期間等をできる限り詳細に説明し、十分な理解を得るよう努めることが重要です。その際には、施設長や医師、その他現場の責任者から説明を行うなど、説明手続きや説明者について事前に明文化しておくとよいでしょう。
2ー3 身体拘束に関する記録の義務付け
事業者において、緊急やむを得ず利用者の身体を拘束して介護を行う場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況、緊急やむを得なかった理由を記録しなければなりません。
この記録は、行政担当部局の指導監督が行われる際に提示できるようにしておく必要があるので、施設において 保存しておいて下さい。
3 終わりに
以上述べてきたように、事業者において利用者に対する身体拘束を実施できる場合は、かなり限定的な場面に限られます。しかも、たとえ身体拘束が可能な場面であったとしても、極めて慎重な手続きを実施していなければ、問題のある身体拘束といわれかねません。
そこで、事業者において身体拘束が必要であると考える場合には、適切な身体拘束を実施するための1つの参考として、本記事に記載した検討事項・留意点を意識してみて下さい。
- 介護従事者に支払う賃金から、貸付金を相殺して支払うことができるか?【貸付金と給与を相殺できる場合とは】 - 2015年6月1日
- 離床センサーマット(離床センサー)は身体拘束行為にあたるのか!? - 2015年4月7日
- 就業規則の変更による労働条件の不利益変更~介護事業者が知っておくべき就業規則のルール~ - 2015年4月2日