就業規則の変更による労働条件の不利益変更~介護事業者が知っておくべき就業規則のルール~

就業規則_不利益変更

 以前、就業規則の法律的な意味等について記載しました。今回は、就業規則を労働者(介護従事者)にとって不利益変更をする場合のルールについて、事例を元に解説していきたいと思います。

1 就業規則の不利益変更の事例

 A介護施設においては、介護従事者の定年を満60歳と定めているが、希望者は65歳までパートとして継続雇用できるよう制度を設けている。
 しかし、なかなか若手の介護従事者も集まらないことから、既存の介護従事者にしっかり長く働いてもらうため、定年を満65歳まで引き上げる予定である一方、人件費総額を抑えるために57歳以降は役職手当をカットする方法で、57歳以上の職員の賃金水準を下げたいと考えている。

果たして、このような賃金カットが可能かどうか、どのような方法があるのか考えてみたいと思います。

2 介護従事者との個別の合意があれば可能!

 基本的に、介護従事者の労働条件は、介護事業者と介護従事者との個別の合意によって定められるものです。したがって、賃金減額、すなわち労働条件を介護従事者に不利益に変更する場合においても、当然、個別の合意があれば可能です(労働契約法8条)。

3 就業規則の変更による労働条件の不利益変更

 ただし、個々の介護従事者ごとに異なった労働条件を合意するのではなく、就業規則によって統一的に労働条件を定められていることもあると思います。そこで、就業規則を変更することによって、労働条件を不利益に変更する方法があげられます。
 条文を見てみましょう。

労働契約法
(就業規則による労働契約の内容の変更)

第9条  使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
第10条  使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。

 
この条文から

○原則として、就業規則の変更により労働条件を不利益に変更することはできない
○例外的に、①労働者の受ける不利益の程度、②労働条件の変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況等に照らして、合理的な変更である場合には、就業規則の変更によって労働条件を不利益に変更できる

ということがわかります。なお、この変更後の就業規則の効力を及ぼすためには、「周知」しなくてはならないのですが、周知については、以前の記事(介護事業者は就業規則を定めないといけないのか)を御参照下さい。

4 本件の場合は?

 結局、①カットする役職手当てがどの程度の金額であるのか(介護従事者の受ける不利益の程度)、②定年の引き上げの理由、それによって役職手当てをカットせざるを得ない財務状況かどうか(労働条件の変更の必要性)、③変更後の賃金水準が、他の事業者や社会一般と比べて高いかどうか、④介護従事者との交渉の状況等を考慮することになるでしょう。
なお、変更後の就業規則が、定年を引き上げる点においてにとって有利であって、役職手当てカットという不利益な労働条件を緩和するものであることは、介護従事者の受ける不利益が小さいという方向に判断する材料の一つとなります(上記①の要件)。

5 まとめ

 今回の事例は、最高裁判所平成9年2月28日判決(第四銀行事件)を参考にしております。
 本事例とは事情は異なりますが、労働者の受ける不利益はかなり大きいとしつつ、定年延長と賃金水準の見直しの必要性が高い、変更後の賃金水準が、社会一般と比べてかなり高い、定年延長は不利益を緩和する措置といえることなどから、変更後の就業規則を合理的であると判断しております。
 いずれにしても、就業規則を不利益に変更する場合には、介護従事者の理解を得るよう努めてください。また、変更後の就業規則が合理的であるか否かは、一般論で語ることはできませんので、迷った場合、専門家に相談するようにしましょう。

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