介護従業員が病気で欠勤した場合でも固定給の全額を支払う必要があるか?

給料減額

介護従事者が急な病気で欠勤をした場合、その日の分の給与を支払う必要はあるでしょうか。そんなもの、払う必要がない!と事業者の方々は思うかもしれません。でも、給与体系が月給制の場合、つまり、祝日日数の違いなどによる月の労働日数の多寡にかかわらず毎月定額を支払う内容であった場合はどうでしょう?月額賃金○万円と定めているのに、欠勤日数分を固定給から控除することはできるのでしょうか?
いわゆる日給月給制であれば、勤務しなかった日分の給与を支払わなくていいことは当然ですが、月給制の場合はどうなのか、考えてみましょう。

1 ノーワークノーペイの原則

民法によると、労務に従事することとその報酬たる賃金の支払いは対価関係にあり、労働者は約した労働を終わった後でなければ賃金を請求できないとされています。すなわち、労働なくして賃金はもらえない、というのが原則なのです。これを、ノーワークノーペイの原則といいます。
いわゆる日給月給というのは、1日の給与額×働いた日数を月給として支給するので、この原則に適うものということができそうです。

2 月給制とノーワークノーペイの原則

では、月給制をとっている場合、ノーワークノーペイの原則との関係はどうなるのでしょうか。
1ヶ月あたり賃金22万円と労働契約を締結している場合に、1日、介護従事者が病気で休んだとしましょう。なお、その月の所定労働日数は22日とします。
このとき、22万円を賃金として支払わなくてはならないのか、それとも、欠勤分を減額して支払えば足りるのかという問題です。また、欠勤分を減額するにしても、21万円となるのか、それとも、違う金額となるのかも問題になります。

2.1 欠勤分を減額できるか

結論から言うと、ノーワークノーペイの原則がありますので、特別な合意、つまり、いわゆる完全月給制と呼ばれるような欠勤した場合にも賃金を支給するというような内容の合意がない限りは、固定給から欠勤分の賃金を減額することは可能です。

2.2 計算方法はどうなるか

減額する場合の1日当たりの賃金額の計算方法ですが、これは、何通りか考えられると思います。例えば、①年間通しての月平均所定労働日数を求めた上、月額賃金額をその日数で除して、1日あたりの賃金額を算出し、欠勤日数分控除する方法、②月額賃金額をその当該月の日数で除して、1日あたりの賃金額を算出して欠勤日数分控除する方法などです。
どのような方法をとるべきかは、結局のところ、事業者と従事者の間の労働契約で定められた方法によりますが、それが明らかでない場合、契約内容を合理的に解釈して方法を模索することになります。この点、いわゆる月給制の一日あたりの賃金計算方法につき、①の方法をとった裁判例がありますので、基本的にはそれに倣うのが宜しいかと思います。

東京地方裁判所平成10年7月27日判決(株式会社オーク事件)
「いわゆる月給制であるが、各月の所定労働日数の長短にかかわりなく、月額賃金は同一であること(前記第三の一2(二))、本件全証拠に照らしても、原告と被告が本件契約の締結の際に労働基準法三五条に規定する休日について賃金を支払うことを合意したことを認めるに足りる証拠はないことに照らせば、原告の一か月当たりの賃金の支給の対象となっているのは各月の所定労働日数ではなく月平均所定労働日数(労働基準法施行規則一九条一項四号を参照)であると解するのが相当である」

具体的には、年間休日が80日だとした場合、年間の所定労働日数は、365日(閏年は366日)-80日=285日となり、これを12ヶ月で割ると月平均所定労働日数が23日となります(小数点以下切捨て)。月額賃金22万円を月平均所定労働日数23日で割ると、1日あたり9565円(小数点以下切捨て)となります。したがって、1日欠勤した場合は、22万円-9565円=21万0435円となるわけです。

4 最後に

賃金は労働契約の重要な要素です。無用な争いを起こさぬよう、欠勤した場合の賃金の取扱い、減額する場合にはどのような計算によって減額するのかということは、就業規則の賃金規定などにきちんと明記しておくようにしましょう。

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