介護事業の指定取り消し・停止等の処分や指導の概要と流れ
近年、介護事業者(介護保険指定事業者)に対する処分や指導の件数が増えてきています。
そのため、介護事業者としても、行政による処分や指導の内容を正確に理解しておく必要が高まってきています。
今回は、介護事業者の方も押さえておくべき、行政による処分や指導の内容と流れについて、解説いたします。
目次
1 近年の処分件数
介護事業者に対する指定取消、効力の全部または一部の停止処分の件数は、厚労省の発表によれば、平成28年度は244件で、そのうち最も多い指定取消しは141件です。
また、指定取消しの理由は、不正請求が約60%を占めています。
出典:厚労省HP
上記の発表は、指定取消しや効力停止の処分にまで至っているケースの件数ですので、その前段階である指導や監査の件数は、もっと多いことになります。
介護事業者様としても、行政による処分や指導に適切に対処するために、それらの種類と流れを押さえておくことが重要なのです。
2 処分の種類
介護事業に関する主な処分・指導とその概要は、以下の表のとおりです。
根拠条文は、介護事業の内容によって異なりますが、以下の表では居宅介護事業の場合の根拠条文を記載しております。
種類 | 処分・指導の概要(根拠条文) |
---|---|
指定の取消し | 指定居宅サービス事業者等の指定を取り消されること(介護保険法77条1項各号等) 事業を再開するためには介護事業の指定の申請をやり直す必要がある。 処分がされた場合、その旨が公示される(同法78条3号) |
指定の効力の全部の停止 | 一定期間、指定事業者としての事業活動の全部が制限されること(同法77条1項各号等) 期間経過後は事業を再開できる(再申請は不要)。 |
指定の効力の一部の停止 | 一定期間、特定の事業活動が制限されること(同法77条1項各号等) 期間経過後は事業を再開できる(再申請は不要)。 |
勧告 | 指定基準に定める従業者の人数、設備・運営の基準に違反している場合に、期限を定めて、基準を守るように促すこと(同法76条の2第1項) 従わない場合には公表されることがある(同条2項) |
命令 | 勧告に従わない場合に、従うよう命令すること(同法76条の2第3項) 命令が出された場合、必ず公示される(同条4項) |
指導 | 従業者の人数、設備・運営等の基準に従うよう呼びかけること(同法23条、24条) 基準に違反していなくてもなされる場合がある。 |
監査 | 基準に違反している疑いがある場合に、その調査のためになされる(同法23条、24条) |
介護給付の返還、加算金の徴収 | 事業者が介護給付を不正利得した場合に、受給額全額の返還とその40%の加算金の徴収がされること(同法22条3項) |
2-1 指定の取消し、効力の全部または一部の停止とは
介護給付を受けて介護事業を行おうとする事業者は、都道府県知事の指定を受けなければなりません。
ですが、指定の取消し、効力の停止処分を受けると、介護事業者は、介護保険給付を受ける介護事業を行うことができなくなります。
特に、指定取消しの処分を受けてしまうと、その後は自治体から事業者に介護給付が支払われなくなり、事実上介護事業を続けることができなくなります。
また、多くの自治体では、指定取消しの処分を受けてから5年~10年間は再度の指定を受けることができないとされています。
このように、指定取消しの処分は、事業者に対する処分の中でもっとも重い処分です。
効力の停止とは、介護事業者としての指定の効力が一定期間停止することをいいます。
つまり、「一定期間だけ、介護事業をまったく行うことができなくなるようにする処分」です。
効力の停止には「全部の停止」と「一部の停止」があり、「一部の停止」の具体例としては、新規利用者の受け入れだけが禁止されるケースなどがあります。
効力の停止が指定の取消しと違うのは、停止期間が終われば、介護事業を行うことができるようになる点です。
指定の取消しの場合は、指定を受け直さなければなりませんが、効力の停止の場合には、自動的に元に戻ります。
2-2 勧告、命令とは
勧告とは、介護事業者に対して、法令で定められた適正な運営をするように促すための注意喚起をいいます。
管理者が配置されていない(人員配置基準違反)、施設に不備がある(設備・運営基準違反)などの理由により「改善勧告」が出されます。
改善勧告に従わない場合には、都道府県のホームページなどで、事業者の名称、場所、改善命令の内容等が掲載されることがあります。
事業者が正当な期間内に改善勧告に従わない場合には、次は改善命令が出されることになります。
改善命令が出された場合には、介護保険法上、必ず公示しなければならないとされています。ホームページに掲載されるほか、重大な案件(介護事故により利用者が死亡した場合など)には、記者会見により発表されることもあります。
勧告と命令の違いについては、一般的に、「勧告は行政指導であり強制力はないが、命令には強制力がある」と説明されています。
これは、勧告が、あくまで事業者が任意に改善することを期待して出されるものであり、法律上の強制力はないという建前になっているからです。
もっとも、実際問題として、改善勧告に従わない場合には改善命令や指定取消し等の処分に発展する可能性があり、勧告にも事実上の強制力はあるといえます。
2-3 指導、監査とは
指導は、行政が介護事業者に対して、法令で定められた基準を遵守するように呼びかけることをいいます。
実施の方法によっていくつかの種類に分類できます。
- 集団指導
- 複数の事業者を集めて行う講習会
- 実地指導
- 指導官が事業所に行き書類の提出を求めたりする
- ①一般指導:任意に選ばれた事業所に対して行われる
- ②個別指導:違反の疑いがある特定の事業所に対して行われる
指導のなかで、行政の担当者(指導官)は介護事業者から、介護計画書等の書類や帳簿を提出させたり質問をしたりすることができるとされています。
ただし、指導はあくまで任意の提出や質問であり、法律上の強制力はありません。
次に、監査とは、指導の結果悪質な違反があると疑われる場合や、利用者等から通報を受けた場合に行われるもので、監査結果を踏まえて改善勧告が出されるかどうかが判断されます。
実地指導・監査の1ヶ月~2週間ほど前に、事前に行政から実地指導・監査を行うことが通知されます。
任意だから応じたくない、あるいは日程が合わないなどの理由で指導・監査を拒否したいとお考えの事業者もいらっしゃいますが、拒否すると「何か隠しているのではないか?」と疑われるなど、基本的に良いことはありません。
それよりも、指導や監査に協力的であることは、指定取消し等の重大な処分がされる際にも考慮される事情ですので、指導や監査に協力する姿勢を見せておくことが重要です。
2-4 介護給付の返還、加算金の徴収とは
事業者が偽りその他不正の行為により介護給付を受けたときは、その全額の返還と、40%の加算金の徴収がされることになります(介護保険法22条3項)。
不正請求のケースとしては、①都道府県知事から指定を受ける時点から虚偽の申請をしていた場合と、②個々の介護給付の請求の際に虚偽の報告があった場合とがありますが、いずれにせよ、それまで受け取った介護給付は返還しなければならず、40%の加算金の支払もしなければなりません。
3 処分の実際の流れ
一般的な処分の流れは、概ね次の図のとおりです。
ポイントは、監査の結果必要であるとされた場合には改善勧告が出ること、改善勧告・命令に従わない場合には指定取消し等の処分がされることです。
行政としても、事業者のサービスを受けている利用者に影響が出るような処分はあまりしたくありません。つまり、指定取消し等の重大な処分が出るのは、非常に悪質な場合に限られます。
逆に言えば、指導や監査などの早い段階で行政からの指摘を受け止め、真摯に対応することが、指定取消し等の重大な処分を避ける上で重要なのです。
4 まとめ
以上、今回は、介護保険法上の行政処分の概要について解説いたしました。
介護事業者の方は、ご自身の事業所に指導や監査が入ると判明した段階で適切な対処を行わないと、最悪の場合指定の取消し処分に発展するおそれがあります。
そのため、速やかに専門家に依頼して対策を行うことが重要です。
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