試用期間中の介護従事者の本採用を拒否できるか【弁護士が教える使用期間法律的活用法②】

使用期間採用拒否

 試用期間は、一般に、労働者の適性を評価、判断するための期間であり、法的には試用期間中の労働者と事業者との契約関係は、解約権留保付きの労働契約と考えられております。
 では、いざ、採用した介護従事者の適格性に問題があった際、どのようなときに解約権を行使することができるのでしょうか。

1 解約権を行使できる基準は?

 以前、採用内定の場合に述べたことと同じではありますが、解約権留保付きであろうとも「雇用契約」である以上は、無条件で解約権を行使することはできないです。法律の規定こそないものの、最高裁は、次のように述べています。

最高裁判所昭和48年12月12日(三菱樹脂事件)
「前記留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である。換言すれば、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至つた場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができるが、その程度に至らない場合には、これを行使することはできないと解すべきである。」
最高裁判所平成2年6月5日判決(神戸弘陵学園事件)
「解約権留保付雇用契約における解約権の行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合に許されるものであって、通常の雇用契約における解雇の場合よりもより広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきである」

 
 つまり、労働者、介護従事者の適格性を判断するという試用期間の目的に鑑みて、試用期間終了によって本採用を拒否してもしょうがない、ということが必要になるのです。そして、通常の雇用契約における解雇の場合よりも緩やかに解約権の行使が認められるということになります。

2 具体的にどういうときに、本採用を拒否できるのか?

 これは上記のように、本採用を拒否してもしょうがないよね、と裁判官に理解してもらえることが必要となりますので、ケースバイケースで考えるしかありませんが、一般には、次のようなケースが考えられるのではないでしょうか。

2−1 勤怠状況

 遅刻、欠勤等の勤務状況については、採用してみないとわかりません。労働者の適格性を判断するという試用期間の趣旨、目的からすれば、勤怠状況が悪い労働者については、本採用をしない、解約権を行使することができることが多いでしょう。
 裁判例においては、出勤率について、試用期間中の出勤率が90パーセントに満たないとき、あるいは3回以上無断欠勤した場合などに本採用しないという旨が定められた内規に基づき、本採用を拒否したケースについて、解約権の行使の適法性が認められております。

2−2 業務不適格性

 業務中に、利用者への不相当な対応を行った場合において、本採用を拒否するということが考えられます。同様の理由から通常の正職員を解雇するケースに比べれば、上記判例により、緩やかに認められてしかるべきでしょう。
 もっとも、最高裁は、解約権の行使(本採用の拒否)が「社会通念上相当」と認められなくてはならないとしておりますので、利用者に対する対応の内容や、当該介護従事者が介護事業に従事するのが初めてであったのか否かなどの個別の事情を考慮し、研修や指導をすれば改善が見込まれるのかどうか、あるいは、それらを行ったのに改善が見られなかったのかという点をも意識して、本採用拒否をしておくのが無難でしょう。

3−3言動の不適格性

 やはり、いざ働いてみないと当該介護従事者の性格はわからないものです。円滑に業務を遂行する上で他の介護従事者との関係もある以上、上司の職務命令に対する反応や職場での協調性等に鑑みて、本採用にはしたくないというケースも多いと思います。
 これも先に述べたとおりですが、通常の正職員の場合に比べれば、緩やかに解雇(本採用の拒否)が認められる建前ですが、利用者とかかわりの無い職場環境内での言動の不適格性については、職場の規模、どの程度の言動があったのかという点を個別に考慮する必要があるでしょう。ちなみに、かなり昔ですが、昭和40年の裁判例(ただし、仮処分申請に対する判決。東京地方裁判所昭和40年10月29日判決)においては粗暴な発言をしたり、軽率な発言をしたことにより、試用期間中に解雇した例において、解雇権の濫用と認められなかった事例も存在します。

3 備考

 いずれにしても、試用期間とはいえ、労働契約が成立していることには変わりません。仮に、本採用拒否をした場合に介護従事者が労働者である地位の確認を求めてきたとき、裁判に負けてしまうと、多大な損失を被るおそれがあります。
 個別具体的に考える必要があり、また、どのような証拠が存在しているのか、すなわち、介護従事者の不適格性を示す証拠が存在するかという点が大きなポイントとなってきます。介護従事者の不適格性を示す証拠を提出すべき義務を負うのは、本採用を拒否した事業者側です。証拠がなければ、その事実はなかったものと扱われても仕方ありません。なお、どのような場合に本採用に至らないことがあるのか、就業規則で定めておくことは、非常に有用と思われます(労働者も、そういう決まりがあれば、納得しやすいです)。
 したがって、いざ、本採用拒否に動きたいという場合には、以前解説した試用期間の延長の可能性をも視野に入れ、一度、専門家に相談することをお勧めします。

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