介護職員に適した業務を見抜くための試用期間の法律的活用法!

試用期間

 面接等を経て介護職員を雇用するとなっても、いざ、働いてみないと当該介護職員が業務に向いているのか、性格的に問題があるかどうかはわからないと思います。しかも、人材不足の状況においては、面接時に多少ひっかかるところがあったとしても選り好みできないこともあるかもしれません。
 
 そのようなことから、事業者の皆様においては、雇用契約に試用期間を設けることもあるのではないでしょうか。今回は、試用期間を法律的にみていきたいと思います。

1 試用期間とは?

 試用期間とは、一般に、働く人(労働者)の適性を評価、判断するために設ける期間のことをいいます。つまり、介護従事者として向いているのかどうか、当該施設で従事していくに差し支えないかという判断の期間です。
 この試用期間は、採用内定と同じく、法律上、どのような性質のものであるかは明記されていませんが、最高裁判所は、次のように述べています。

最高裁判所平成2年6月5日判決(神戸弘陵学園事件)

「試用期間付雇用契約の法的性質については、試用期間中の労働者に対する処遇の実情や試用期間満了時の本採用手続の実態等に照らしてこれを判断するほかないところ、試用期間中の労働者が試用期間の付いていない労働者と同じ職場で同じ職務に従事し、使用者の取扱いにも格段変わったところはなく、また、試用期間満了時に再雇用(すなわち本採用)に関する契約書作成の手続が採られていないような場合には、他に特段の事情が認められない限り、これを解約権留保付雇用契約であると解するのが相当である。」

抽象的に述べておりますが、試用期間の法的性質について、誤解を恐れずざっくりいうと、最高裁は、ケースバイケースで判断しなくてはならないけども、多くの一般的な場合は、解約権留保付雇用契約ですよと述べているのです。
解約権留保付という意味は、試用期間はいわば「お試し」の期間なので、お試し中は解約することができるという権利が付いているということです。

2 試用期間はどれくらい設けることができるのか?

 長ければ長いほど、介護従事者の適性を評価、判断できる期間が延びるわけですから、介護事業者としては望ましいかもしれません。
 しかし、既に述べたとおり、試用期間は、お試しの期間なのですから、介護従事者としてはその期間が延びれば延びるほど不安定な立場に陥ることになります。
 そこで、通常は、3ヶ月あるいは6ヶ月とする場合が多いと思います。
 この点については、法律上どれくらいの期間にしなくてはならないという規定はありません。しかし、1年を超える試用期間は、労働者である介護従事者の地位を著しく不安定にするものといえるので、無効とされるおそれがあります。

3 試用期間を延長できるか?

 例えば、試用期間を3ヶ月と定めたとします。その間に、介護従事者の適格性に疑義が生じたとして、もう少し、本採用まで様子をみたいと思うこともあるかも知れません。そのような場合に、試用期間を延長することはできるのでしょうか。
 そもそも、雇用契約は、介護事業者と介護従事者との意思の合致により成立します。つまり、どういう勤務形態で、どのような規律で働いてもらうという事業者側の意思と、それに応じる介護従事者の意思の合致によって成立するのです。ただし、不当な条件で雇おうとしても、その意思の合致が法律上定められている規定に反する場合、すなわち、労働関連法規に反する場合には、無効とされ、法律上の基準が適用されてしまうことになります。
 しかし、先に述べたとおり、試用期間の制限については、法律上明確な制限はないのです。
 そこで、試用期間の延長について、以下のとおり、当事者間で意思の合致ができてしまえば、先に述べた1年を超えない範囲内で試用期間の延長をしても差し支えありません。

①介護従事者本人から承諾を得る
②就業規則等に試用期間の延長についての明文規定がある(詳しくは述べませんが、合理的な内容の就業規則は当事者を拘束します)
③慣例として、試用期間の延長が行われている(これも当事者間を拘束する場合があります)

なお、以上に当てはまらず、当事者を拘束する意思の合致がなくても

④介護従事者の勤務状況に応じて、勤務態度を観察する合理的な必要性がある場合

には、試用期間の延長が認められることがあると考えます。試用期間の延長は、一概に介護従事者にとって不利とも断定できないことがあるからです(合理的な理由がある場合、延長されないで、試用期間満了で採用拒否された方が、介護従事者にとって不利だからです)。
 いずれにしても、試用期間を延長する場合においては、介護従事者を不安定な地位に置くことになる以上は、その期間を限ることが必要となるでしょう。

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