利用料がどれだけ滞納されたら介護事業者から介護サービス契約を解約できる!?
当サイト上で説明したように、介護サービス事業者が介護サービス契約を締結する際には、介護サービス契約書を作成すべきです。
もっとも、契約書の類型は、物の売買契約書、建物賃貸借における賃貸借契約書、といった具合に各契約の特性に応じて様々であり、介護サービス契約書を作成する際には、介護サービス事業の特性を踏まえた契約書を作成する必要があります。
そこで今回は、介護事業者が介護サービス契約を解除することができる内容の解除条項を入れるとして、利用者の利用料滞納期間がその程度あれば解除できるのかという点につき、介護サービス事業の特性を踏まえて説明します。
1 契約の特性と解除条項 ~売買契約、賃貸借契約を例に検討しよう~
契約書の中には、当事者双方が解除・解約ができる旨の解除条項が入っていることを目にしたことがあると思います。
1.1 売買契約の例
例えば、①物の売買契約を締結したのに売主が物を引き渡さなかったことを理由とする買主の解除、逆に買主が代金を支払わなかったことを理由とする売主の解除というような内容になっているのが大多数であると思います。この内容は、物の売買当事者という双方が対等な立場であるという売買契約の特性を踏まえて、双方が同程度の条件で解除ができる内容になっています。
1.2 賃貸借の例
②賃貸借契約書には、3ヶ月以上家賃の滞納があったことを理由とする貸主の解除、逆に貸主の使用収益させる義務違反を理由とする売主の解除というような内容になっているのが大多数であると思います。この内容は、信頼関係を基礎とする継続的な契約であるという賃貸借契約の特性を踏まえて、1度の家賃滞納だけで貸主側で賃貸借契約を解除することができず、貸主と借主の信頼関係が破壊されたといえるような事情(本例では、3ヶ月以上の家賃の滞納事実)があって初めて、貸主側が解除ができるという内容になっています。
2 介護サービス契約の契約特性と解除条項
では、介護サービス契約書に、事業者からも解除ができる内容の解除条項を入れるに際して、利用料滞納期間はどの程度の期間にすべきでしょうか。
介護サービス事業者と利用者は、法形式上は対等な当事者同士であり、この点では物の売買契約と介護サービス契約に違いはありません。この観点からすれば、物の売買契約と同様、介護事業者は、利用者と同程度の条件、例えば、1度の利用料滞納事実があれば解除ができる内容の条項を入れても問題ないとも思えます。
しかしながら、介護サービス契約は、当事者間の信頼関係を基礎とする継続的な契約であるので、賃貸借契約と同様、事業者側で解除をする際には、事業者と利用者との間で信頼関係が破壊されたといえる程度の理由がなければならないでしょう。したがって、1度の利用料滞納事実があれば事業者が介護サービス契約を解除できるという内容の解除条項を定めることは不適切です。
また、介護サービス契約は公的保険に基づくサービスであり、介護事業者は、介護保険制度の下、たとえ利用者が自己負担分の支払いを怠っても、その大部分の料金が保険を通じて支払われます。このように、介護サービス契約は、物の売買契約や建物の賃貸借契約とは異なる公的サービスであり、保険制度を利用できるという特別の事業特性を有します。このことからすれば、賃貸借契約と同様の料金不払い期間があれば事業者が直ちに解除ができるとすることが、介護サービス契約においては不当であることがわかると思います。
したがって、介護事業者側から介護サービス契約を解除することができる内容の解除条項を入れるに際しては、半年から1年程度の利用料滞納事実があった場合と定めるのが穏当であると思われます。
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