利用料金を滞納している利用者が亡くなってしまった場合、どうするか?【介護サービス利用者の死亡・相続と料金請求】

家族

 以前、判断能力が乏しい利用者に利用料金を請求できるのか、という問題を扱いました。請求できなくなることの予防策としては、成年後見制度を利用することなどがある旨お伝えしました。
 今回は、利用料金を滞納したまま、利用者が亡くなってしまった場合の法律問題について考えていきたいと思います。この問題は、消費者を相手として事業を営む方全般に問題となり得る話しですが、介護事業の場合、とりわけ、利用者が高齢者であることから正に現場で起こりうる問題でしょう。

1 お金を払わなきゃならない義務も相続の対象です
~相続の効力~

 「相続」という言葉を聞いた事がない方はいないでしょう。でも、相続というと、土地、建物や預貯金を親から受け継ぐといった肯定的な意味に捉える方が多いのではないでしょうか。
 しかし、民法は次のように定めています。

(相続の一般的効力)
第896条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

 このように、被相続人の財産に属した「一切の権利義務」を承継するのです。「義務」とある以上、お金を支払わなくてはならないという義務も相続の対象ということになります。
 したがって、利用料金を滞納したまま利用者が亡くなった場合には、利用料金を支払わなくてはならないという義務も、相続の対象となるわけです。

2 誰に請求すればいいのか ~相続人の範囲~

 では、誰に利用料金の請求をすればいいのでしょうか。これは、相続人が誰なのかという問題です。民法の規定により、相続人の範囲は次のように定められています。

① 配偶者は常に相続人になる(民法890条)
② 子供が第一順位の相続人になる(民法887条)。子供が相続開始時に亡くなってる場合は、孫、孫も亡くなっていればひ孫、さらにひ孫も亡くなっていれば玄孫・・と永遠に続く(民法887条2項、3項)
③ 上記②の相続人がいない場合、親が第二順位の相続人となる(民法889条1項1号)。ただし、親が亡くなっていれば祖父(民法889条2項)。
④ 上記①、②の相続人がいない場合、兄弟姉妹が第三順位の相続人となる(民法889条1項2号)。

 このように、第一順位の相続人がいれば第一順位の相続人、それがいなければ第二順位の相続人、さらに第二順位の相続人がいなければ第三順位の相続人が相続人になるのです。
したがって、子供(孫、ひ孫・・・含む)→親(祖父母含む)→兄弟姉妹という順番になり、配偶者はいれば常に相続人になります。

3 相続する割合はどうなの?

 では、相続人がたくさんいる場合に、誰にどのような割合で未払利用料金を請求すればいいのでしょうか。
 法律上定められている相続分、これを「法定相続分」といいますが、利用料金を支払わなくてはならない義務は、「法定相続分」にしたがって分割して相続されることになります。遺言があろうがあるまいが関係ありません。
 これが、利用料金を請求する側としてはやっかいなところです。なぜなら、介護保険サービス事業者としては、利用契約を結ぶにあたって、家族構成やキーパーソンを把握していることがほとんどだと思いますが、必ずしも、そのキーパーソンが相続人であるとは限らない上、相続人であったとしても、その他に相続人がいればその人に全額を請求することはできず(もちろん、その人が任意に支払ってくれればいいですが)、基本的には相続人を調査した上で分割して請求しなくてはならないからです。

 それでは、法定相続分がどのように定められているかというと、まず、配偶者がいない場合、同順位の相続人たちで平等に分けられます。例えば、配偶者がいなくて、子供3人であれば3分の1ずつになります(相続人が子供1人であればその子が100パーセント相続します)。
 他方、配偶者がいる場合は、

A:その他の相続人が子供であれば、配偶者が2分の1で、残りの半分を子供達で分ける
B:その他の相続人が親であれば、配偶者が3分の2で、残りを親で分ける
C:その他の相続人が兄弟姉妹であれば、配偶者が4分の3で、残りを兄弟姉妹で分ける

となります。

4 相続人が誰なのか調べるには?

 端的にいえば、亡くなった利用者の生まれてから亡くなるまでの戸籍を取り寄せ、親族関係を調べます。思いがけず、離婚した前妻との間に子供がいるといった事情が発覚することもよくあります。戸籍は、本籍地の市区町村で管理されており、当該市区町村で取得できます。
 ただ、介護事業者としては、利用者の住所は把握していても、本籍まで把握していることはまず有り得ないでしょう。
 そのような場合は、まず、本籍を記載した利用者の住民票の除票(住民登録していた者が亡くなると、住民票から除かれるため、「除票」という名称になります)を取得するのです。取得する場所は、利用者が住民登録していた市区町村です。
 住所はプライバシーの最たるものですから、住民票の除票を一事業者が取得することができるの?しかも本籍の記載まである除票を?と疑問に思うかもしれませんが、利用目的を説明し、必要性を疎明すれば、取得が可能なはずです。その本籍を記載した住民票の除票をみて、本籍地の市区町村に戸籍を請求していくのです。
 ただし、戸籍の記載は、慣れていないとなかなか理解することができないと思いますし、戸籍を請求する市区町村が遠方になることもよくあります。現在の戸籍が介護施設の所在する市区町村にあったとしても、結婚する前は父、母と一緒の戸籍に入っているわけですから、生まれてから亡くなるまでの全ての戸籍を取得するということになると、利用者の田舎の実家の市区町村にも請求しなくてはならないからです。そうしますと、この手の戸籍の取得に慣れた法律家(弁護士、司法書士、行政書士)に任せるというのもよいでしょう。
 このようにして、相続人が誰なのか、また、それに伴い各相続人の法定相続分がわかったら、各相続人に対して、未払利用料金の請求をしていくこととなるのです。

 次回は、このような面倒な相続問題に対処するための予防策と、相続に関する問題について触れたいと思います。

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