介護サービス契約の注意点①【判断能力が乏しい利用者との契約で利用料金をもらえる?】
介護サービス契約書上、本人欄と代理人欄を設けている事業者の方は多いように思いますが、実際に次のような場面に遭遇されたことはありませんか。
介護利用者Aは認知症で判断能力が乏しい状態であった。そのため、事業者は、Aと介護サービス契約を締結するに際して、Aの長男であるBを代理人として、契約を締結した。
利用料金の支払は、Bが管理しているAの預金口座(年金が振込まれている口座)から口座振替で行われていた。
ところが、Bはリストラにあってしまい、生活費にことかくようになってしまったため、Aの年金を自分のために使うようになり、その結果、利用料金を滞納するようになった。
この場合、事業者はAまたはBに利用料金を請求することができるのでしょうか。
1.A(介護利用者)に「契約に基づき」利用料金を請求できるか?
利用料金を請求できる根拠は、契約が成立して、サービスを提供したことによります。
そもそも、契約は「申込み」(このお金でこういうサービス受けたい!)と「承諾」(いいですよ。この金額で、このサービスをしましょう!!)という意思の合致により成立し、その前提として各当事者に自分の意思を有効に表示できる能力(「意思能力」といいます。)が必要です。
したがって、Aに意思能力がなければ、契約締結の意思の合致がありませんので契約は無効であり、契約に基づいてAに利用料金を請求することはできません。
ここで、皆さんの中には、BがAの代理人として契約を締結していてBはちゃんと判断できるんだから、Aに意思能力がなくても契約は有効なんじゃないの?と思われる方もいるかもしれません。
しかし、BがAの代理人として事業者と契約した場合に、その契約の効果がAに及ぶためには、AがBに対して代理権を与えていたということが必要なのです。
ところが、Aに意思能力がないとすれば、そもそもBに代理権を与える意思表示ができない(代理をするには、AからBに対して、代理権を与える意思表示をすることが必要!)ので、Bは権限なくAを代理したにすぎず、Aに契約の効果が帰属しません。
したがって、Bを代理人として契約を締結していたとしても、Aに意思能力がなければ、契約は無効であり、契約に基づいてAに利用料金を請求することはできないのです。
ただし、以上の話しは、あくまで「契約に基づいて」利用料金を請求できるかという話です。
2.A(介護利用者)に「契約以外の」根拠で利用料金を請求できるか?
契約が無効であった場合、Aは何の根拠もなくサービスを受け利益を得たことになりますので、不当利得返還請求(民法703条)によって、利用料金相当額を請求できると考えるべきです。
もっとも、この点については、法律上、利用者に現に利益が残っている限度でしか請求できないと定められておりますのでケースバイケースになるかもしれません。
個人的には、介護サービスが必要な状態の方であれば、介護を受けるための費用は必ず支出しなくてはならない以上、ただでサービスを受けたことによって自分の財産の減少がなかったといえる限りは、利用料金相当額の利益が現に残っていると考えてよいのではないかと思います。
また、実際には、「1.~「契約に基づき」~」についても、Aにそもそも意思能力があったのか否かを問題にできるかもしれません。
認知症といっても、常時意思能力がないわけではありませんし、仮に裁判になった場合に意思能力がなかったことを主張・立証しなくてはならないのは、A側になるのです。
3.A(介護利用者)から実際に回収できる?
ただ、Aの年金はBが使い込んでしまっている以上、上の事例では、Aに請求できたとしても実際問題として回収することは困難でしょう。
そこで、次回は、代理人として契約を締結したBの責任と予防方法などについて考えてみたいと思います。
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