利用料金を滞納している利用者が亡くなってしまった場合、どうするか?②【相続人が相続を放棄、相続人がいない場合の法律問題】

相続人がいない夫婦

 前回の相続の記事の続きです。利用料金を滞納している利用者が死亡した場合にかかわる諸問題について説明します。

1 相続放棄について

 前回、相続人の範囲について、配偶者は常に相続人となり、子供(孫、ひ孫等を含む)→親(祖父母等を含む)→兄弟姉妹(甥、姪を含む)の順番で相続人となる旨を説明しました。
 相続は、相続される人、この人を被相続人と呼びますが、被相続人が死亡した時点で発生します。しかし、それぞれの相続人の選択によって、被相続人の遺産を相続しないという方法をとることができます。これを、相続放棄といいます。
 利用料金を滞納している方の場合、財産がほとんどないというケースが多いと思います。このような場合、相続人たちは、相続放棄をすることによって、滞納者の未払い利用料金を支払う義務を免れることが可能です。
 

2 相続放棄があった場合の請求相手は?

 相続放棄があった場合、誰に請求すればいいのでしょうか。
 相続放棄は家庭裁判所に申し立てる必要がありますが、相続放棄の効果として、その者は最初から相続人ではなかったとみなされます(民法939条)。
 そのため、相続人となるべき順位の者の一部が相続放棄をしたにすぎないときは、同一順位の他の相続人たちが相続することになりますが、相続人となるべき順位の者全員が相続放棄をしたときは、次の順位の相続人が相続することとなります。
 例えば、相続人の親族関係が、子供2人、兄弟2人だったとします(親、配偶者は既に亡くなっているとします)。第一順位の相続人は子供ですが、この子供のうち1人が相続放棄をしたにすぎない場合には、もう1人の子供が相続人として全ての遺産を相続しますので、その者に利用料金を全額請求することになります。しかし、子供が2人とも相続放棄をした場合には、最初から子供はいなかったものとみなされますので、孫がいたとしても、次順位の相続人、この場合、親は既に亡くなっているため、第三順位の兄弟2人が相続人となります。

3 相続人がいない場合

 相続人がいない場合、これは相続人となるべき者全員が相続放棄をした場合を含みますが、このような場合は、利用料金を請求する相手がいなくなってしまいます。このとき、亡くなられた利用者に財産があって回収できる見込みがあるのであれば、家庭裁判所に相続財産管理人選任の申立をしましょう。
 これは、相続財産管理人という亡くなられた方の財産を管理する人を家庭裁判所に選任してもらい、その相続財産管理人が、財産を換価したりして、介護保険事業者に滞納利用料金を支払うという手続きです。

4 予防策

 結局、利用者が利用料金を滞納したまま死亡してしまうと相続が発生し、相続人が誰なのか調べたり、全員に相続放棄をされたような場合には相続財産管理人を選任したりと、面倒な手続きが多くなってしまいます。
 この予防策として、利用者が生きているうちに利用料金を回収するというのはもちろんですが、契約時に保証人をつけるということが最も簡便です。保証人をつけていれば、利用者の財産をあてにせず、相続とは関係なく保証人独自の財産からの回収が可能です。
 ただし、必ず、保証人をつけることを法律上求めることができるわけではないことは念頭に入れておいて下さい。保証人をつけられないことを理由に介護保険サービス契約の締結を拒否できるわけではないのです。例えば、訪問介護事業者の場合、「正当な理由なく」指定訪問介護の提供を拒んではならないことが政令で定められていますが(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準第9条)、この「正当な理由」とは、人員、施設等の問題で申込みに応じきれない場合をいうと考えて下さい。
 2015年8月からは介護保険サービスの利用者負担が2割に増える予定です。保証人となるべき方には、利用料金の滞納があると介護保険サービス制度が成り立たなくなるおそれがあることを説明し、説得していくよう心掛けましょう。

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