介護事業サービスを行う際に生じ得る法的責任①【介護事業者の行政・民事上の責任】

法的責任①

 介護事業サービスについては、介護事業者自体の責任と介護事業者の職員自体の責任が発生する可能性があります。これらは、法律上明確に区別されています。
 そこで、まず、介護事業者自体に生じ得る法的責任について説明します。その後、介護事業者の職員自体の責任や、介護事業者自体と介護事業者の職員自体の責任の関係等を説明していきたいと思います。

1 総論~介護事業者事態に生じ得る法的責任~

 本サイト上で、介護事業者は、都道府県等の地方公共団からの指定や許可を受けて事業を行うことを説明しました。介護事業者自体に生じ得る法的責任には、大きく①行政上の責任と②民事上の責任があります。

2 ①行政上の責任

 地方公共団体によって介護事業者の指定もしくは許可を受けるという事業特性から、当該地方公共団体から指定もしくは許可の取消しあるいは業務改善命令や業務停止といった行政処分が課せられる可能性があります。
たとえば、指定居宅サービス事業者の指定取消しについては、介護保険法第77条に以下のとおり規定されています。

(指定の取消し等)
介護保険法第77条  都道府県知事は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該指定居宅サービス事業者に係る第41条第1項本文の指定を取り消し、又は期間を定めてその指定の全部若しくは一部の効力を停止することができる。

 同法第77条に規定される各号事由は、1号から13号まで規定されておりますが、詳細については条文を参照下さい。要は、指定を受けた際の基準を満たさなくなった場合や指定居宅事業者に課せられる法的義務を満たさなかった場合など、介護保険指定事業者として継続することが不適切であるというような事業者の組織上の問題がある場合には、指定の取消し処分がなされるというものです。

3 ②民事上の責任

 介護事業者は利用者との間で、介護サービス提供契約を締結します。この契約により、介護事業者自体に契約で定めた介護サービスを提供する義務が発生することになります。
 介護事業者自体が個々の契約で定められる介護サービス提供義務を果たせなかったことにより介護サービス利用者に損害が生じた場合には、民法415条によって、債務不履行責任に基づく損害賠償責任を負うことになります。

 (債務不履行による損害賠償)
民法第415条  債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

 それでは、次に個々の契約で定められる義務について、日本弁護士連合会のホームページ上に掲載されている居宅サービスについての契約書(以下、「本件契約書」といいます。)及びサービス内容説明書を例に具体的に検討してみましょう。

(本件契約書第5条)
乙(事業者)が提供するサービスのうち、甲(利用者)が利用するサービスの内容、利用回数、利用料及び介護保険適用の有無については、別紙サービス内容説明書のとおりです。
(サービス内容説明書)
 1.提供するサービス
① サービス提供にあたっては、個別サービス計画書に基づき、あなたの要介護状態の軽減もしくは悪化の防止、要介護状態となることの予防になるよう、適切にサービスを提供します。
② ・・・。

 これらの記載から、介護サービス事業者自体に、「適切にサービスを提供する」義務が生じていることがわかります。したがって、これを果たせなかったために利用者に損害が生じた場合には、介護事業者自体に故意・過失がある場合に債務不履行責任が認められることになり、これと因果関係のある利用者の損害についての賠償責任が生じることになります。

4 最後に

 ここまで読まれた皆さまは、「適切にサービスを提供する」といっても、何を基準にどのように考えればよいのか疑問を持たれていることでしょう。そこで、次回は「適切なサービス」についての説明をしていきます。

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