介護事業者に課される介護サービス提供義務の内容及び判断基準
1 はじめに
前回は、日本弁護士連合会のホームページ上に掲載されている居宅サービスについての契約書(以下、「本件契約書」といいます。)及びサービス内容説明書を具体例として、介護事業者が「適切にサービスを提供する」義務を果たさなかった場合には、介護事業者自体に債務不履行責任が生じることを説明してきました(介護事業サービスを行う際に生じ得る法的責任)。
そこで、今回は、介護事業者に生じる「適切にサービスを提供する」義務とは何なのか、どのように考えればいいのかという点について説明していこうと思います。
2 「適切にサービスを提供する!?」
介護事業者は、何をすれば「適切にサービスを提供」したことになるのでしょうか。この点については、個々のケースにより異なり、一義的に定めることは不可能でしょう。そこで、介護事業者がサービスを提供するにあたって考慮すべきである、大まかな視点を指摘するにとどめます。
①介護保険法の目的
介護サービスは介護保険法に基づいて行う事業サービスです。そして、介護保険法第1条には、利用者が自立した日常生活を営むことができるようにするために必要なサービスを行うことを法律の目的として掲げています。この法の目的からすれば、介護事業者が行う介護サービスは、利用者の自立支援をはかる趣旨で、それに相応しいサービスを提供する義務があるのです。
(目的)
第1条 この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。
②設置基準、運営基準、地方公共団体の監査基準等
繰り返しになりますが、介護事業者が行うサービスにつき、どの程度のサービスを行えば「適切」であるとの明確な定めがあるわけではありません。
しかしながら、介護保険制度を利用するための要件である介護保険制度における各設置基準や運営基準は、最低限順守する必要があるでしょう。また、各地方公共団体が介護事業者の事業内容についての監査基準を定めている場合もあり、この監査基準も参考になるでしょう。
③苦情解決事例や裁判事例
何が適切なサービスであるかという点について明確な定めがない以上、過去の事例を参考に問題点を把握し、改善していく必要もあるでしょう。具体的には、福祉協議会が公表する苦情解決事例集や、実際に裁判になった判決及び判例にアンテナを張っていくことが重要です。
まとめ
上記①~③についていずれの視点も、法的視点が必要不可欠です。したがって、専門家に相談することで、よりよい予防、解決ができるでしょう。
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