介護保険サービス事業者が知っておくべき高齢者虐待防止法における虐待の現状と虐待の種類

介護_虐待

1 高齢者虐待の現状

 平成18年4月1日、高齢者の虐待を防止すること、高齢者の養護者の支援を目的として、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(高齢者虐待防止法)が施行されました。
厚生労働省の発表によると、平成24年度における高齢者虐待の通報件数は養介護施設従事者等による虐待が736件、そのうち虐待と判断された件数が155件です。
 他方、養護者による虐待の通報は23843件、虐待と認められた件数が15202件のようです。

【参考】
平成 24 年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果-(厚生労働省)

 
 ちなみに、「養介護施設従事者等」とは、施設サービス従事者だけではなく、訪問介護やデイサービスなどの居宅サービス事業の従事者も含まれます。「養護者」とは、高齢者を現に養護するものであって養介護従事者等以外の者のことをいいますので、家族、同居人などが該当します(同法2条2項)。

 また、どのような人が通報したかというと、養介護施設従事者等による虐待については当該施設の職員がトップ(29.9%)で、養護者による虐待についてはケアマネージャーがトップです(32.0%)。これらからすると、介護の現場で虐待を発見することが多いということがわかります。介護保険サービス事業者あるいはその従事者としては、高齢者虐待防止法もきちんと理解しておく必要があるでしょう。

2 虐待の種類

 では、高齢者虐待防止法ではどのような行為を虐待として規定しているのか、ということですが、同法によれば、虐待の種類は、身体的虐待、放任、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待の5つです。

2.1 身体的虐待とは

 「高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること」は虐待にあたり  ます(同法2条4項1号イ、同条5項1号イ)。これは当然の話しであり、むしろ、刑法上の傷害罪、暴行罪に該当する行為です。
 また、厚生労働省によれば、「市町村は、高齢者虐待防止法に規定する高齢者虐待かどうか判別しがたい事例であっても、高齢者の権利が侵害されていたり、生命や健康、生活が損なわれるような事態が予測されるなど支援が必要な場合には、高齢者虐待防止法の取扱いに準じて、必要な援助を行っていく必要があります。」とされています。

【参考】
Ⅰ 高齢者虐待防止の基本-厚生労働省

 この厚生労働省の見解によると、外部との接触を意図的、継続的に遮断する行為も身体的虐待にあたりうるとのことです。
なお、外部との接触を意図的、継続的に遮断する行為が厳密に言って「暴行」にあたるのかといえば疑問があります。しかし、仮にこれらの外部との接触を意図的、継続的に遮断する行為が「暴行」にあたらなくても、介護保険サービス事業者がこれを行えば、要介護者の人格を尊重する義務に違反していること(介護保険法74条6項など)となってしまい、指定の効力が停止されてしまうことがあります。
 以前ニュースにもなりましたが、訪問介護事業者が、徘徊する傾向のある高齢者宅のドアをバイク用のチェーンで外から固定して、高齢者を家に閉じ込めた事例で指定の効力が停止されたケースがありました。

2.2 放任とは

 法律上、「高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、養護者以外の同居人によるイ、ハ又はニに掲げる行為と同様の行為の放置等養護を著しく怠ること」、「高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置その他の高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること」も虐待とされており(同法2条4項1号ロ、同条5項1号ロ)、これを放任といいます。
 ちなみに、下線部の「イ、ハ又はニに掲げる行為」とは、身体的虐待、心理的虐待、性的虐待をさします。

2.3 心理的虐待とは

 「高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと」も虐待であり(同法2条4項1号ハ、同条5項1号ハ)、これを心理的虐待と呼びます。

2.4 性的虐待とは

 「高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること」が虐待として定義されています(同法2条4項1号ニ、同条5項1号ニ)。ただし、解釈上、高齢者が望んでいる場合には、当然虐待とはいえません。

2.5 経済的虐待とは

 「高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること」も虐待です(同法2条4項2号、同条5項1号ホ)。ちなみに、この経済的虐待については、養護者ではない親族が行った場合であっても虐待となります(同法2条4項2号)。
 要介護者である高齢者の子供が要介護者の年金を使い込んでしまったケースなどは、経済的虐待にあたり得るのです。

次回は、実際に高齢者の虐待を発見してしまったときの対応などについて説明します。

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