介護事業者が知っておくべき成年後見制度の手続きの概要①~誰が申し立てる!?~
介護事業者にとって、入所者から施設利用料を確実に回収することは重要なことでしょう。
しかし、入所者の判断能力が乏しくなり、入所者の財産管理が不透明になった場合には、回収のリスクが生じてしまうこと、その対応策として「成年後見制度」の利用が有効であることを、当サイトでもご紹介させていただきました。
そこで、まずは、成年後見制度を利用するための出発点である、成年後見を申し立てる「申立人」について説明します。
誰が申立人になれるの!?
成年後見制度の申立てを行う申立人は、大きく分けて以下の2通りです。
① 配偶者、四親等内の親族による申立て
② 市区町村長による申立て
市区町村長は、65歳以上の者(65歳未満の者で特に必要があると認められる者を含む)、知的障害者、精神障害者について、「その福祉を図るために特に必要があると認めるとき」は、後見開始の審判等の請求ができる(老人福祉法32条、知的障害者福祉法28条、精神保健及び精神障害福祉に関する法律51条の11の2)。
判断能力が乏しい入所者に親族がいるような場合には、まずは、①入所者の親族に成年後見制度を利用してもらうように促すことが考えられます。
しかし、親族による財産管理や介護状況が不適切であることも多いことが実情ではないでしょうか。
そのような場合には、②市区町村に情報提供を行い、市区町村長による申立てを促すことが考えられます。
「その福祉を図るために特に必要があると認めるとき」とは!?
ここで、②市区長村長による申立の要件である、「その福祉を図るために特に必要があると認めるとき」についての参考判決をご紹介させて頂きましょう。
この事案は、区長申立てに対して、本人と同居していた子が、区長の申立ては「その福祉を図るために特に必要があると認めるとき」の要件を満たしていないとして争ったものです。
この事案につき、東京高裁H25.6.25判決は、
「子による介護状況は極めて不適切であるとの評価を免れないものであるから、本人保護の必要性が高い状態であったということができる。それにもかかわらず子において、本人についての成年後見開始等の審判を申し立てることは期待できない状況である。」
として、このような状況は、「その福祉を図るために特に必要があると認めるとき」という要件を満たすと判断しました。
本事例は、本人と同居していた親族の介護状況が極めて不適切であった場合の事例判決ではありますが、本人の親族が成年後見等の審判を申し立てることに反対していたとしても、親族の介護状況が極めて不適切であるような場合には、市区町村長による申立てが適法になる場合があるということですね。
では、親族の財産管理や身上監護が不適切な場合はどうなるの!?
「その福祉を図るために特に必要があると認めるとき」という要件は、財産管理及び身上監護を行う成年後見人の申立てを市区町村長が行うための要件です。
したがって、親族が極めて不適切な財産管理や身上監護をしており、本人保護の必要性が高い状態である場合にも同様の判断がなされる可能性が高いのではないかと考えています。
つまり、入所者の財産管理や身上監護が不適切になれば、施設に入居するための費用が払えなくなる危険がある以上、入所者の福祉を図るために特に必要がある場合といえるのではないかと考えられるということです。
以上のように、介護事業者は、入所者の判断能力が乏しい状況にあり、施設利用料を回収するリスクが生じそうな場合には、入所者を保護するためにも、申立人である親族や市区町村長に対して、入所者の成年後見等の審判の申立てを行うように促していくことを選択肢の1つとして持っておくといいでしょう。
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