介護担当職員に生じる法的責任 ~法的効果が発生する「主体」(人)という観点から検討してみよう~

介護士

 今回は、介護事業サービスを行う際の介護担当職員の法的責任について説明していきます。介護担当職員に生じる法的責任の種類は、以前説明した、介護事業者に生じる法的責任の種類と異なります。比較しながら、順番に検討していきましょう。
 
 
 

1 行政上の責任

 それでは、まず、行政上の責任、つまり国との関係で、介護事業担当職員は何か責任を負うのかという点をみていきましょう。

1.1 介護担当職員には行政上の責任は生じない!!

 介護事業者には行政上の責任が生じますが、介護担当職員には行政上の責任は生じません。
この違いは、なぜ生じるのでしょうか?

1.2 法的効果が発生する「主体」!?

 まず、行政上の責任は、指定や許可を出した事業者に対する地方公共団体の指導・監督責任との意味合いが強いものです。したがって、行政上の責任が生じる「主体」は、地方公共団体から指定や許可を得た事業者ということになります。条文上も、行政上の責任が、指定や許可を受けた事業者に生じると明確に規定されています。
つまり、都道府県等の地方公共団体から直接指定又は許可を受けた介護事業者が行政上の責任を負う「主体」であるのに対し、地方公共団体から直接指定や許可を受けていない介護担当職員は行政上の責任を負う「主体」ではありません。
したがって、地方公共団体から直接指定や許可を受けない介護担当職員には行政上の責任は生じません。

2 民事上の責任

 それでは、民事上の責任についてみていきましょう。これは、人との関係で責任を負うのかという問題です。

2.1 債務不履行責任(民法415条)

2.1.1 介護担当職員に債務不履行責任は生じるのか!?

 介護事業者には、介護サービス利用者に対する責任として、民法415条に基づく債務不履行責任が生じます。では、介護担当職員についてはどうでしょうか。条文を確認しながら、先程の「主体」という観点から検討してみましょう。
 

(債務不履行による損害賠償)
第415条
「債務者」がその「債務」の本旨に従った履行をしないときは、「債権者」は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

大まかにいうと、「債権者」が「債務者」に損害の賠償を請求することができる内容であり、債務不履行責任が生じる「主体」は「債務者」であることがわかります。この債務不履行責任は、契約に基づく責任とも言われます。
 今回は、介護サービス利用者が介護担当職員に債務不履行に基づく損害賠償を請求できるかどうかの問題ですから、「債権者」は介護サービス利用者です。では、介護担当職員は債務不履行責任が生じる「主体」たる「債務者」ですか?介護サービス利用者に対して「債務」を負っていますか?
 

2.1.2 介護事業者は「主体」といえるか!?

 以前説明したように、介護事業者には、介護サービス利用者と介護サービス契約を締結することで、契約で定めた介護サービスを提供する義務=「債務」が発生しました。したがって、介護サービス利用者と直接介護サービスを締結した介護事業者は、介護サービス利用者に対して「債務」を負った「債務者」であるということがわかります。よって、介護事業者には、「債務」を負う「債務者」=「主体」としての債務不履行責任が生じます。
 

2.1.3 介護担当職員は「主体」といえるか!?

 他方で、介護担当職員は、介護サービス利用者との間で、介護サービスを提供する契約を直接締結しているわけではありません。したがって、介護担当職員には、介護サービス利用者に対して、契約に基づく「債務」を負っておらず、「債務者」ではないことになります。よって、介護担当職員には、「債務」を負う「債務者」=「主体」としての債務不履行責任は生じません。
 

2.1.4 まとめ

 このように、債務不履行責任は、「債務」を負っている「債務者」=「主体」が負います。そこで、債務を発生させる原因たる契約を締結した当事者が誰であるのかについて検討すれば、契約を締結する当事者ではない介護担当職員には債務不履行責任が生じないことが明確にわかります。

2.2 不法行為責任(民法709条)

2.2.1 介護担当職員に不法行為責任は生じるのか!?

 介護担当職員は、介護サービス利用者との間で契約上の責任である債務不履行責任は生じないものの、契約に基づかずに発生する不法行為責任は生じます。介護担当職員に、なぜ不法行為責任が生じるのでしょうか。条文を確認しながら、「主体」という観点から検討してみましょう。

(不法行為による損害賠償)
第709条
故意または過失によって他人の「権利又は」法律上保護される「利益を侵害した者」は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

大まかにいうと、「権利又は利益を侵害した者」が侵害された者に生じた損害を賠償する責任を負うという内容ですね。
 

2.2.2 介護担当職員は「主体」といえるか!?

 不法行為責任には、債務不履行責任のような契約に基づいて発生する「債務」を負っている「債務者」という観念がなく、単純に「権利又は利益を侵害した者」=「主体」であることがわかります。つまり、介護サービス利用者の権利又は利益を侵害した介護担当職員は、不法行為責任の「主体」となります。
 したがって、介護担当職員が、故意または過失によって、介護サービス利用者の権利を侵害し、これによって介護サービス利用者に損害が生じた場合には、介護担当職員には不法行為責任が生じます。

3 刑事上の責任(業務上過失致死傷罪、刑法211条)

 刑事上の責任は、条文上明らかなように、違法行為を行った者に課せられるものです。したがって、「主体」=行為者であり、介護担当職員が故意または過失で利用者の心身に損害を与えた場合には、刑事上の責任も発生する余地があります。しかしながら、よほど悪質な行為でない限り、刑事責任まで追及される例は少ないでしょう。

4 最後に

 以上、介護担当職員に生じる法的責任につき、「主体」は誰かという観点から検討してきました。この意識を持って条文を読めば、誰に責任が生じるかということに悩むことは少なくなるでしょう。

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