採用内定期間中に法律上研修に参加させることはできるのか?【事業者が知っておくべき採用内定の法律】
介護保険事業者が新卒者を採用したいと考えた場合に、当該新卒予定者に対して、採用内定を出し、大学、専門学校又は高校を卒業後に迎え入れるという方法をとることがあると思います。
本稿においては、この採用内定が、法的にはどのような意味合いをもつのか考えるとともに、内定者に対して内定期間中に研修に参加させることができるのか、考えたいと思います。
1 採用内定の法律的な意味は?
採用内定とは、おおざっぱに言うと、新卒予定者が無事学校を卒業した際には採用しますよという内容の契約になります。
多くの場合、新卒予定者は学校を卒業するまでは働かなくて良いし、万一卒業できなかった場合には、事業者側は採用しなくても良いのです。
したがって、採用内定は、大半の場合、始まりの時期が付いていて、かつ、その時期までに解約することもできる労働契約(始期付・解約権留保付の労働契約)であると考えられています。
2 いつ採用内定は成立する?
では、いつの時点で、採用内定が成立するのでしょうか。実は、これは事案によって、様々であるといわざるを得ません。採用内定も、上記のとおり、始期付・解約権留保付の労働「契約」ですから、契約である以上は、事業者と労働者の意思の合致時期に採用内定が成立したと考えられるからです。
例えば、企業によっては、内定者に対して、卒業後には就職をする旨の誓約書をとっているケースもあるようですが、このような誓約書がある場合には、その書面を提出したときに採用内定成立ということになるでしょう。誓約書をとっていない場合には、内定を通知したときと捉えるか、その通知に対する新卒予定者の返答があったときと捉えるかはケースバイケースだと思います。
3 採用内々定って何?
人材不足の中では、なかなか採用「内々定」を行うことは少ないかもしれませんが、念のため、採用「内々定」についても法的性格を考えたいと思います。
この「内々定」ですが、文言からすれば、内定の更なる前段階を表しているということができます。したがって、通常は、「内々定」は、単に労働契約の締結過程に過ぎないと捉えるべきでしょう。
ただし、採用を確信させるような言動があったり、他社への就職活動を妨げるような事実上の拘束をしていた場合には、「内々定」との文言にこだわることなく、採用内定と同じく、始期付・解約権留保付の労働契約と考えるべきではないかと思います。
4 内定期間中の義務
さて、採用内定は、多くの場合、始期付・解約権留保付の労働契約を意味しますが、入社時期までの当事者の法律関係はどうなっているのでしょうか。例えば、事業者が、内定者に対して、研修に参加するよう強制させることはできるのでしょうか。
端的に答えると、これもケースバイケースとしか言えません。実は「採用内定」も「採用内々定」もどのような場合に成立するのか、当事者がどのような義務を負うのかという点につき法令の規定があるわけではないのです。
よって、採用内定も契約である以上、お互いの合意によって成立するものなので、どのような内容の合意をしたのかという点から、採用内定の法律的な意味や当事者が負う義務を導き出すしかないのです。
このような観点からしますと、単に、
新卒者:「こちらこそお願いします」
との合意であったとすれば、内定期間中に新卒者が義務を負うことはないという結論になります。よって、研修に強制させることはできないということになります。
もし、内定期間中に研修に参加させたい場合には、内定時にきちんと説明し、承諾を得ておく必要があるでしょう。ただし、研修について説明をし、承諾を得ていた場合であっても、学業への支障など合理的な理由により研修参加を取りやめる旨内定者が申し出たときなどは、事業者は、研修への参加義務を免除すべきと考えられます。裁判例においても、同様の判断がなされたものがあるので、事業者の皆様は注意しましょう。
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