介護従事者との雇用条件を定める形式には、どのようなものがあるか~法令、労働契約、就業規則、労働協約の関係~
介護従事者との間で、どのような労働条件で働いてもらうのか、職場内で、どのようなルールが適用されるのかについて、法律上、どのような形式でルールを定めることができるのでしょうか。また、形式が複数あるとして、その優先順位はどのようになっているのでしょうか。抽象的ですが、いろいろな場面で考慮しなくてはならないことになりますので、総論的に解説してみたいと思います。
目次
1 労働条件を定めるルールは?
労働条件を定めるルールとしては、次のものが考えられます。
② 就業規則
③ 労働協約
④ 労働基準法などの法律
①の労働契約は、労働者との個別の契約のことをいいます。②の就業規則は、当該事業場で働く労働者全員に適用されるルールをいいます。③の労働協約は、労働者が組織する労働組合との間で締結された労働条件に関する合意のことをいいます。④は、いわば、労働者の最低労働条件を定めたものとして、効力を発揮するものになります。①と④はいいとしても、②の就業規則と③労働協約がどういうものであるのか、どういう場合に適用されるのかということについては、別記事で解説する予定ですが、本稿においては、まず、種類と優先順位を覚えましょう。
2 それぞれのルールの優先順位は?
さて、ここからが本題です。
上述のとおり、①から④まで、労働条件を決めるためのルールがあるわけですが、それぞれがバッティングしてしまったときにどのような優先順位になるのでしょうか。
2−1 強行法規に反することはできない~④が最低基準~
先に述べました④の労働基準法などの法律は、労働者の最低限度の労働基準を定めたものになります(ただし、例外として、法律上、一定の分野においては、労使協定という労働者の過半数の代表との書面による協定などによって労基法の規制を免れることができることもあります(有給など))。
したがって、例外を除くとすれば、一番に守られなければならないものは、④の労働基準法などの法律になります。
この労基法などの規制に反するようなルールは、無効とされ、労基法等のルールが労働条件を規律することになります。例えば、「うちは時給600円」という契約、就業規則、労働協約を結んだとしても、最低賃金法という強行法規に抵触することになりますので、いずれも無効とされ、最低賃金法で定める時給によって労働条件が改められるということになるのです。
2−2 ①労働契約と②就業規則の関係
結論からいうと、労働契約が就業規則より介護従事者に不利な場合、就業規則が適用されます。ただし、労働契約の方が就業規則より有利な場合は、労働契約が適用されます。
すなわち、就業規則が定められている場合、これも、当該事業場における最低ラインを定めるものとして機能してきて、労働契約が就業規則の基準に満たない場合、就業規則が適用されます。
ただし、あくまで最低ラインですから、逆に労働契約が有利な場合には、当該労働契約が適用されることになるのです。例えば、「あなたは時給800円だよ」と①労働契約を締結したとします。でも、②就業規則で「職員の給与は時給850円とする」と定められていた場合には、②就業規則の適用があり、時給は850円です。逆に、「あなたは時給1000円だよ」と①労働契約を締結した場合において、②就業規則に「職員の給与は時給850円とする」と定められていた場合は、①労働契約が優先し、時給は1000円です。
労働契約法12条
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
2−3 ①労働契約と③労働協約の関係
労働協約とは、労働者が組織する労働組合と使用者との間で締結された労働条件等に関する合意のことを言います。
この労働協約が当該事業場で働く労働組合員以外の者にも及ぶのかという問題は、今後折を見て解説する予定ですが、労働協約と労働契約のどちらが優先するのか、ということについていえば、③労働協約>①労働契約になります。これは、有利、不利問いません。
労働組合法16条
労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となった部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても、同様とする。
2−4 ②就業規則と③労働協約の関係
労働基準法上、「就業規則は・・・労働協約に反してはならない」と定められております(労働基準法)。
よって、③労働協約が②就業規則に優先するということになります。
労働基準法92条1項
就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。
3 まとめ
以上より、まとめますと、例外を除けば、④労働基準法などの法律は守らなければなりません。
その上で、①労働契約、②就業規則、③労働協約のいずれが優先されるのか、ということをいえば、
①労働契約と②就業規則については、どちらが有利、不利な条件を定めているかということを考慮し、労働契約に有利な条件が定められていれば①労働契約が優先し、就業規則に有利な条件が定められていれば②就業規則が強いということになります。
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